バターリッチ・フィアンセ
ペンションの裏手はアスファルトの駐車スペースになっているけれど、車が満車の状態でもゆったりと広い敷地がある。
ここの宿泊客は、その場所で夜花火をするのが定番なんだとか。
私と昴さんも美和さんご夫妻に誘われて、お風呂上がりにその場所に集まった。
夕食時も会うことのできなかった、美和さんの旦那さまで昴さんのもう一人のお友達……達郎さんとは、その時に初めて顔を合わせた。
「織絵さん、せっかく来て下さったのになかなか挨拶できずにすみませんでした。みーちゃんに聞いてたけど、本当に可愛い人ですね」
達郎さんは、もともと細い目をさらに優しげに細め、のんびりとした調子で言った。
「みーちゃん?」
きょとんする私に、昴さんがこっそり耳打ちする。
「……美和のこと。今日ここに来た時もちょっと言ったろ?
こいつら普段は“みーちゃん”“たっちゃん”って子供みたいに呼び合ってんだ」
「まあ、素敵!」
ぱちんと手を叩いて笑顔になる私を、昴さんは怪訝そうに見て言った。
「……まさか、織絵もそういう馬鹿っぽいの好き?」
「馬鹿っぽいでしょうか? お二人の仲の良さの象徴じゃないですか。
別に昴さんに“オリちゃん”と呼んでほしいわけではないですけど、女性は特別な呼び方って結構憧れるものだと思いますよ?」
「ふーん……」
全く興味がなさそうに返事をする昴さん。
本当は、あなたになら“オリちゃん”と呼ばれてもいいんですけどね。
私は内心そう思いながら、美和さんたちが用意してくれた花火の袋に手を伸ばした。