バターリッチ・フィアンセ
「わ、どうしよう! 昴さん、火が! 火が!」
「……花火だから当たり前だろ。つかこっちに向けるな! 熱っ」
バーナーのように火を噴き出す手持ち花火が、最初は怖くてたまらなかった私。
けれど、炎の色がカラフルに代わったり、アスファルトに絵が描けるんだということを教わってからは次第に楽しくなってきて、いつの間にか誰よりもはしゃいでいた。
「あー、もう終わりだね。一袋しかないとあっという間」
ガサガサと、袋をあさっていた美和さんが残念そうに言う。
「あとは線香花火か」
達郎さんが言うと、美和さんが何かを思いついたように顔を上げ、彼に何か耳打ちした。
そして口を開いた達郎さんが、私と昴さんに言う。
「……あ、あのさ。俺たちそろそろ仕事があるから、線香花火は二人でやっちゃって?」
「織絵さんは初めてだから、本数があった方がいいだろうし。ね?」
どうやらご夫妻はペンションに戻って片づけなきゃならない仕事があるらしい。
すごく楽しい時間だったから、残念……
しょんぼりする私の肩を、昴さんがぽんと叩く。
「じゃあ織絵が全部やっていいよ。俺、下手なんだ、線香花火」
「下手……?」
……花火に上手い下手があるのかしら。
線香花火というものがどういう性質なのか知らない私は、疑問に思って昴さんを見つめ返す。
「あぁ、やり方も知らないのか。じゃあ、最初の一本だけ一緒にやるか」
「はい、是非」
美和さんたちを見送ってから、私と昴さんは線香花火に火をつけた。
さっきまでの花火とは違って音も明るさも控えめなそれは、私たちの居る場所だけをぽうっと優しく照らした。