不器用なアイ歌
この高校にはある制度が存在する。あたしはその制度があるからこそ、ここを選んだ。歌手になる一番の近道でもある。

「今日からよろしくお願いします、先輩!」

学校の先輩、もしくはOBかOGが希望する生徒に指導する。

あぁ、言い忘れていたっけ?ここは歌を専門とする学校。多くの生徒を芸能界へ送り出している。

つまり本場で勉強が出来るのだ。
当然、あたしは指導を希望した。

「……鈴、ちゃん?」

あたしの担当をしてくれる先輩を見て、声を聞いて、体が強張る。目を見張る。

「聖君……?」

紛れもなく、会いたかったあの聖冶だ。
あたしの事を鈴ちゃんと呼ぶのは二人だけ。だから、間違いない。

あたしは気付けば聖冶に抱きついていた。懐かしくて、嬉しくて、衝動的にしがみついていた。
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