不器用なアイ歌
懐かしむのもそこまでにして早速、指導に入ることにした。

「じゃあ一回、歌ってみて」

レッスン室では他の人たちも各々レッスンを開始している。開始早々、叱られている人も多い。あたしは深呼して歌い出す。

「〜♩」
「はい、ストップ」

サビに入る直前、あたしの歌は止められた。聖冶の顔が険しいのが遠目に見ても分かる。やっぱり駄目かと、首を縮める。

だけど、彼はいつまで経っても何も言わない。不思議に思って見上げるとバツの悪そうに目をそらしただけ。

「聖冶?」

恐る恐る声を掛けると我に返ったようにあたしと目を合わせる。

「聖冶“先輩”でしょ?」

その顔はいつもの笑顔と違って見えた。
< 5 / 14 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop