不器用なアイ歌
彼はいつだって噓つきなのだ。何かあっても絶対にあたしに隠すし、あたしを完全に信用してはくれない。いつも聖冶は“子供は知らなくていいこと”といってずっとその扱いだ。

でも今のあたしは成長したのだ。いつまでも子供のままではいられない。

「噓つきな聖冶先輩。今度は何考えていたのか、教えてくれますか?」

今はもう、一歩も退く気はない。答えるまで何度だって問い詰めてやる。

だからもう嘘はつかないで……。同じ思いをするなんて御免だからね?

「別に、何も考えてないけど?」

それでもやっぱり、あたしの願いは聖冶には届かないみたい。相変わらず嘘をつく。

「ダウト、ね?いいから教えなさい」
「子供は聞かなくて――」

あたしは聞き飽きたその言葉をさえぎる。

「その言葉、もう聞き飽きたよ」

そういうと彼は可笑しそうに笑ってくくっと喉を鳴らす。あたしは何が面白いのか判断しかねていた。だけどなんだから馬鹿にされているみたいで嫌だった。

ひとしきり笑った彼はぽんっと頭に手を置き、しみじみとした感じでこう呟いた。

「そうだな。お前ももう子供じゃないもんな」

何か引っかかる感じがしたが、今はそこには触れないでおく。でないと一番肝心のことが聞けなくなるからだ。それだけは避けなければならない。

ようやく聖冶が口を開きかけたとき狙い澄ましたかのように授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。その音を聞いて聖冶は『また今度だな』と足早にレッスン室を出て行った。

「……絶対、同じことは繰り返さないからね。海里」

あたしは気づかれないように、拳を握り締めていた。もう、同じ悲劇を繰り返さないようにと……。
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