不器用なアイ歌
『大丈夫、僕は平気だから』

『鈴は心配しなくていいの』

『君には……関係ないことだから』

『歌も君も聖冶も……大嫌いだよ』

そこであたしははっと目を覚ます。あたしの目に映るのはいつもの見慣れた部屋の天井。だけどそこに人の姿が見えて、どうしようもなく怖くて嫌な汗が背中にまとわりつく。

「ゆめ……?」

ようやく出てきた声も掠れ、頭がくらくらする。

やっぱり、会わなければよかった。そう思ってしまうのはあたしが弱いからだろうか?聖冶はなんともないのだろうか?

答えのない自問自答を繰り返しているうちに朝日が部屋に差し込んでくる。少し早いけど仕度を始めることにした。

「まだあたしのことを恨んでるかな……?海里」

誰も居ない部屋に吸い込まれていく言葉を吐き出し、自習のためにレッスン室へと向かう。この時間なら誰も居ないだろう。そう思ってあたしはわざわざレッスン室を選んだのだ。

キィ、と扉が少し軋む音にも、もう馴れた。明かりのついた部屋に入るとなんだか落ち着く。

「何してるの?」

そう。“明かりのついた”部屋だ。誰かが居たのは明白なのに、何故その声に驚くのか。

答えは簡単ではなかった。

「海里……?」

あたしの頭が理解に追いつかないほどには、ね。

ある意味、幽霊やら怪奇現象やらのほうがよかったかもしれない。そうすればきっとあたしはこんなにパニックにはならなかっただろうから……。
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