不器用なアイ歌
あたしの耳が、声を聞きたがる。今の声をもう一度、もう一度と頭の中で繰り返す。もっと聞かせて欲しいと声を求める。

ゆっくりと声の主を探す。

――時が止まったかと思った。

「海……里」

いや、確かに時が止まっていたんだ。海里の周りだけ。海里だけが……。


「海里……」

触れられやしない、幻だとわかっていても手を伸ばさずにはいられない。それは衝動的なものであり、あたしの心残りだった。

「君さ、ここで何してるのって聞いてるんだけど」

触れる直前に、冷たい言葉でぴしゃりと言い放たれる。幻ででも、拒絶されるのかな……?せめて夢くらい見せてくれてもいいのにさ。

「あれ、鈴ちゃん?っと……」

不意に聞こえた聖冶の声。反射的に振り向くと寂しげに笑う聖冶が立っていた。ゆっくりと近づき、あたしと海里を交互に見てあたしを励ますように見る。

「久しぶりだな、陸兎」

聞きなれない名前を口にした。“陸兎”?一体、どういうことだろうか?

「聖君?あの……」

あたしが言葉をつむぐ前に、聖冶は『ごめんね』と小さくつぶやいてくるりと向きを変える。あたしの真正面に立つように……。

「鈴ちゃん、こちらアイドルをやってる陸兎」
「え……?」

耳を疑った。『アイドルをやってる陸兎』?彼は海里じゃない?

……いや、海里じゃないことはわかっていた。だけど、別人だとも思っていなかった。

あたしは混乱するばかりだった。
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