年下の彼氏が優しい件
さっきまで虚ろな顔をしていたのに、今度は動揺を隠せないほどの挙動不審ぶりを見せる。
これは、本格的に何かあったに違いない。
赤の他人の話を聞くほど、自分はお人好しではないが・・・
昨日彼の一生懸命さに感動し、自らの生徒にも見習ってほしいとまで思った男の人なのだ
彼は。
そんな彼が、魂の抜け殻のようにぼんやりと宙を眺めたり、心ここにあらず、といった態度であれば、少しは気になる。
と、いうか・・・・
何故か彼、赤の他人のはずなのに、母性本能?いや違う教師本能をくすぐられる。
『何かあったのは明白なんだから、何があったのか、話してみて。』
照「言えるわけねぇだろ。・・・赤の他人なんだし。」
簡単には言えないほどのことがあったのだろう。
内容は気になる。しかし…
『…話したくないならいいよ。』
照「…………。」
『でも、昨日も今日も、何があったのかも話さないつもり?』
照「………うるせぇよ。お前が勝手にしたことだろ!」
『…!!』
声を荒げる男の人に、流石に身体が縮こまった。
少し息を荒げて、私を睨みつけた男の人は、私の見てハッとしたように、わるい、と謝った。
…それでも、この男の人の言っていることは正しい。
彼の悩み事を吐き出させて、すっきりさせた方がいいだろうと思って行ったことだとしても、
知り合いでもなく、赤の他人に土足で心の中に入り込まれて誰がスッキリするだろうか。
見たところ、相当悩んでいるようだ。
…憶測ではあるが、昨日名前を呼んでいた綾子という女の子のことかもしれない。
そうだとしたら、男女関係の話だし、余計他人に触れられて欲しくない話題だ。
・・・悪いことをした、な。
彼にお節介をしたのは、私の傲慢であり、
彼が望んでいたわけではない。
むしろ拒否していたのだ。
私の勝手な押し付けで、彼の傷をえぐってしまったのならば、
逆に謝らなければならない。
『…ごめん。』
照「………いや。」
気まずい空気がさらに気まずくなった。
照「怒鳴って、悪かった…。」
『…私が悪かったんだから、怒鳴られても仕方がないし。』
照「いや、勝手に、なんて言った俺が…。」
『ええ、と…』
お互いがお互いに謝りだして、キリがなくなった。
そこで、ふっと男の人が笑い出した。
『え?』
照「いや、大谷サンが謝るからさ。なんか必死そうに。」
『いや、そりゃあ謝るでしょ。強引に話を聞き出そうとしたのは私だし…。』
照「ここまでしてもらったんだ。二回も家まで運んでくれたし、飯も食わしてくれたし、着替えも用意してくれたし、怪我の手当てもしてくれたし。ここまでしてくれて、勝手にしたなんて言える立場じゃねぇしな…。」
『それは私が勝手にしたことだし!世話焼きだと自分でも思うから、そんなことは気にしないで!』
必死に私が弁解したところで、男の人はきょとんとした顔をして、再び小さく笑った。
笑った顔、少し可愛いかもしれない。
と、いうか…幼く見えるな…。
少し見とれてしまっていて、また男の人が話し出したところで意識が戻ってきた。
照「……話、聞いてくれるか?」
『…え?』
さっきと言っていることが逆になってない?
さっきまで拒否していたのに…
一体どういった心境の変化だろう
照「…俺も、頭の中がまとまってないんだ。だが…大谷サンの言うように、人に話を聞いてもらったら、少しはスッキリするかもしれない。」
『…さっきのことに対して申し訳ないと思って言うんだったら、それは…』
照「いや、ちょっと気が立ってただけだ…。大谷サンのおかげで、ちょっと余裕できたから、話をさせてくれ。」
男の人はじ、っと私を真剣に見た。
その目は、さっきのことが申し訳ないからとか思っているわけじゃないと物語っていて、
私を少し頼ってくれているような目だった。
出会って2・3日の関係であるはずなのに、彼は私のことを信用していることが、顔を見て分かった。
その目は、私が学校で見ている生徒たちと同じような目をしていたから。
『わかった。…ゆっくりでいいから、話を聞かせてちょうだい。』
私は近くに椅子を持ってきて、ベッドのそばに座って彼の話を聞く体制に入った。