年下の彼氏が優しい件
大谷美咲SIDE
タイミングが悪かったとしか言いようがない。
随分久しぶりに、幼いころからの友人に会った。
その友人は、私と違って女の子らしく、まぁ、スタイルも良い。
明るくて、少しだけ押しが強いけれど、とても良い友人である。
その友人は、私に久しぶり!とあいさつをしたところから、さっそく爆弾を落としてくれた。
「この前、あなたのマンションの部屋から、男の人が出ていったのを見たのだけど…」
にやにやと私を見つめながら、彼氏?と直も言葉を続ける。
この前、というか、我が家に男の人が入ること事態がまずない。
たった一度だけ、いろいろ訳ありの男の人、高野さんを家に入れただけだ。
と、いうことは……
『高野さんとはそういう仲ではなくて…』
「へぇ。高野さんっていうんだー」
墓穴を掘った。
随分前から約束をしていた、家でのたこ焼きパーティ
彼氏が大阪の人で、小さなたこ焼き器を貰ったのだ、と友人が嬉しそうに話していたことから、今回の話が出来たのだ。
私も彼女も社会人なので、こうして休日の土曜日に二人で私の家で会い、たこ焼きを仲良くつついていた。
たこ焼きの生地を作ったり、焼いたりしながら、彼女の質問攻めを交わしていたが、流石に友人もしびれを切らした。
「ねぇ。で、その高野さんとはどういう関係なの?」
『だから、高野さんとは本当に、ちょっといろいろあって、傷の手当をしたりしただけで…』
一応殴り合いの喧嘩をした後だったとか、
一晩泊まってもらったことは言っていないが、
それでも、彼女にはそれだけで十分だった。
「美咲って、学生時代から色恋沙汰ってなかったから、つい。」
悪びれもせず、彼女は可愛く笑う。
彼女とは、中学から大学までずっと一緒なため、彼女なりに私の恋愛事情を知っているからか、心配してくれていたのだろう。
しかし、それでも高野さんとは何もないし、
もし、今後も機会があれば、という関係で
『本当に、もう会う機会もないと思うし。』
だから彼とは何もないのだと友人に伝える。
「あら、それじゃあこちらから切っ掛けを作れば良いのよ。」
もちろん、連絡先は交換しているんでしょう?
可愛らしい笑顔が、悪魔の微笑みに見えた。
友人が帰った後、私は携帯電話を見つめていた。
正確には、電話帳の”高野照史”の文字を。
友人に「こっちから食事に誘っちゃおうよ!ほら、食べに行きたい店があるので、一緒に行ってくれませんかーってさー」と言われ、
「連絡したら、どうなったか教えてねー」
とまで言われてしまえば、もう高野さんに連絡をするしか選択肢がなくなった。
彼には、確かにお詫びがしたかった。
本人は良いと言ってはいたけれど、彼の心に土足で入ってしまったことには変わりがないし。
…あれから、彼はどうなったのか、少しだけ気になっていたからだ。
綾子さんのこと、今も気にしているのだろうか。
毎日電話をするほどだし、彼女を疑ったり、憎んだりしていないように見えたから、
大分一途だし、やさしくて純粋な人なんだろうとは思うけれど。
少しだけ、息抜きに…。
前から気になっていた、スイーツの店があるから、そこに一緒についてきて貰えないか、と。
そう、簡潔に言ってしまおう。
ぎゅっ、と携帯を握りしめ、
私は、”高野照史”という文字の下の通話を、ゆっくりとタップした。