年下の彼氏が優しい件
照史SIDE
電話に出ると、一週間ぶりに聞く、大谷サンの声だった。
『もしもし?』
そう尋ねてくる声に、少しだけ緊張しながら、答える。
照「えっと、久しぶり。」
もう少し気の利いたことを言えなかったのか俺は。
ぐるぐるとあまり上手く回っていない脳をフル回転して、大谷サンが電話してきた理由を考えた。
何か忘れ物でもしただろうか。
いや、しかし、あの日も今日と同じ様に、携帯と財布しか持っていなかったはず。
大谷サン家から帰るときに二つともきちんと持って出たのだから、そんなはずはない。
そう、考えをめぐらしていると、大谷サンが言葉を発した。
『うん、お久しぶり。怪我の具合はどう?』
流石大人だと思った。
言葉の切り替えしというか、なんか上手い。
照「えっと、大分治ってきた。ありがとうな。」
とりあえず、礼の一つは言っておかなければ、と申し訳程度に”ありがとう”を言う。
大谷サンは良かった、とつぶやいて、恐らく今回電話してきた要件を言おうと、それでね、とつづけた。
『ちょっと、高野さんにお願いしたいことがあって…。』
お願いしたいこと?
照「お願いしたいこと、って…なんだ?」
何か困っていることでもあるのか、
大谷サンは少しだけ言いづらそうに言葉を続ける。
俺としては、この前の礼をきちんとしていなかったし、
早めに礼をしないと、と考えていたから、
大谷サンからそういってもらえると、かなり有り難かった。
本当は俺から言わないといけないことだ。
そこらへんはここ一週間大谷サンのことを思い出すだけだった昔の俺を恨みたい。
『…ちょっと、行ってみたいお店があってね。』
何か買い物でもしたいのか?
それならその場で何か買ってプレゼントが出来る、と頭を動かしていた。
しかし、
『バイキングなんだけど…』
夕食の誘いだった。
互いの休日が合うのが、たまたま次の日だったので、
急だけれど、それではその日夕方六時に駅前集合で、
と約束をして通話を切った。
何のお願いか、少しだけ身構えてしまった。
いや、だって大人の女の人だから、買い物だとしても大分長いだろうし(綾子は長かった)
欲しいと思うものも高いものかもしれないし、
お金に困る家庭ではないが、それでも少しだけ、学生の俺でも大丈夫な店か、ドキッとした。
大谷サンから聞いた店の名前は、それほど高くないバイキングの店。
だが、金額のわりになかなか旨いのだと、クラスの女子が話していた気がする。
照「(気を、使ってくれたのだろうか…)」
なんだか、少しだけ照れ臭く感じた。
仲が良い友人も気を使ってくれる時とかは、うれしいと思うが、
何故か大谷サンにされると少しだけ照れ臭いと感じる。
出会いが出会いだったからか、
はたまた、俺が女に慣れていないからか。
いろいろ考えてしまう。
だけど、少しだけ楽しみだ。
俺は、明日何を着ていこうか、クローゼットを開けた。