年下の彼氏が優しい件
5時間目
お昼ご飯を食べて、ある程度明日の仕事の準備をして、
時計の針が約束の時間の二時間前になったころ、
私は少しだけおしゃれをして家を出た。
別にデートがあるから、とかそういう考えがあるわけではないが、
久しぶりの外出だから、ちょっとだけおしゃれをしてみようかと思っただけで…
『(誰に言い訳しているんだか…)』
一人でいろいろ言い訳を考えたら、ちょっとだけ疲れてしまった。
というか、言い訳を考えたところで、だれに話すんだろう自分は。
それよりも…
高野さん、元気にしているだろうか…
まだ怪我をした身体なのだから、職場で怪しまれていたり、しているかもしれない。
彼が望んだ喧嘩ではないのだから、これ以上彼に損なことが起きなければ良いが…
駅から近いショッピングモールで、私は高野さんに対するお詫びの品を選んでいた。
男の人が何を貰ったらうれしいのか分からないけれど、
男女関係なく渡されてもうれしいものが良い。
とすれば、職場で使うものでも探そうか…
文具店の前を通った時、ふと目に入ったものがあった。
『あ、これ…』
待ち合わせの駅前に、約束の10分前についた。
すると、すでにそこには高野さんがいた。
『ごめんなさい!待った?』
照「あ、いや、さっき来たばかりだから大丈夫。」
少しだけ小走りで走って高野さんのもとまで行くと、
高野さんは慌てなくて大丈夫だから、と笑った。
その顔が、少しだけ大人っぽい服装と相まっていて、
ほんの少しだけ、トクンと心臓の音が早くなった。
これは男の人に免疫がないからだ。
そうだ、そうに違いない。
自分の中でそう納得して、改めて高野さんを見上げた。
『それじゃあ、行こうか。』
照「あ、あぁ…」
バイキングがあるところまでは、ここから徒歩5分ほど。
目的地に着くまで、少しだけおしゃべりでもできれば、と思って駅前集合にした。
二人でゆっくりと歩き出しながら、取りあえず気にしていたことを聞いてみた。
『高野さん、身体はもう大丈夫?』
照「あぁ、もう大分痣も消えてきた。本当に世話になったな。ありがとう。」
『いや、私はそんなに大したことをしていないから…』
照「いや、世話になったのは本当だから。」
譲ろうとしない高野さんに、少しだけ笑ってしまった。
私もだけど、彼も少しだけ頑固なようだ。
彼とは気が合うかもしてない。
少しだけそう思っていた時
前方から自転車が走ってきた。
丁度私が歩いていた方で、
ちょっとだけ高野さんの方に寄ろうとしたら、自転車に乗っている人は携帯電話で通話していた為、ふらふらしていた。
『(あ、ぶつかる…)』
ぐらりと揺れた自転車を目で追いながら、他人事のようにそう頭が認識したとき。
照「大谷サン…!」
グイッと、高野さんに腕を引かれた。
『わ…ッ』
横に身体が傾き、体制を整えられない、と思わず目をつぶってしまった。
しかし、背中にぽすんと暖かい感触がして……
『高野さん…』
照「大丈夫か?」
頭一つ分ほど身長が違うからだろう
上を見上げると、高野さんはちょっとだけ私の様子を伺うように、首を少しだけ曲げていた。
『だ、大丈夫です。ありがとうございます…』
思わず丁寧語で答えてしまった。
いや、というかこの体制………
思わず頬が赤くなる。
だって、これ…………
すごく密着して…
意識してしまってからは、行動は早かった。
すぐに高野さんから距離を取った。
『あ、あの。…行こっか。』
照「お、おう。」
照史さんもすぐに私の隣について歩いてくれた。
けど…
それでも、店に着くまで、私の頭からさっき感じた背中の温もりは消えなかった。
『(もう少し、可愛い悲鳴とかなかったのかな…!)』