おまえのために・・・(短編)
無防備に
「ねえ、何か、怒ってる?」
妄想に侵され、黙りこんでろくに話さない俺の眼をおまえは真っ直ぐ見つめた。
めまいがする。
胸に忍ばせたナイフに手が出そうになる。
「いや」
辛うじて、そう応える。
「本当に? 怒ってるなら、そう、言ってね」
そんな、真っ直ぐな眼で、見ないでくれ。
「ああ」
おまえは、無防備に俺の隣に座る。
俺の腕に触れる。
俺に、笑顔を見せる。
「……人って、実は自分の事だって、よく分かってないでしょ?
だから、わたし、自分で思ってるよりずっと、あなたの事分かってないと思うの」
おまえは、真面目な顔で話し出した。