おまえのために・・・(短編)
数歩進んだところで、少女が跳ねるように軽やかに、青年の隣から跳び退いた。
「やーね。
これじゃあ、彼の方が、ずっと良い人だわ」
青年の手には夜の人格の持ちだしたナイフが握られていた。
少女は、苦笑いを浮かべる。
青年は鋭い視線を少女に送るが、少女には通じなかった。
「無駄よ。あなたもまだまだ甘いわね。
あなたの考えなんて、お見通し」
少女は青年の強い目線など気にもかけず、軽く肩をすくめた。
「わたしはプロよ?
大丈夫。安心して下さい。秘密は厳守するわ」
青年は、ナイフを握りしめたまま、少女を睨み続けた。
その目が、そんなはずはないだろう、と言っている。