トレモロホリディ
「ミナ…」


先輩がじわりじわりと私に近付いて来る。


私は無意識に後ずさりした。


そんな悲しそうな目をして、私の名前を呼ばないで欲しいんですけど。


「なぁ、もう一回やり直そう。

お前、俺のことすげー好きだったろ?」


ぶっ。


自分でそういうこと言う?


「そ、そんなのは過去のことです…」


「別れても、誰とも付き合ってなかったじゃん。

俺のことが忘れられなかったからだろう?」


な、何というプラス思考!


忘れられなかったからじゃない。


恋愛はもうこりごりって思ったから、一人だっただけだ。


「先輩、帰ってください。

私、もう出かけないといけない時間なんです…」


まずいよ。


ミナト君を待たせてるし、バイトにも遅れちゃう。


「どうして追い返すんだよ!

随分冷たいじゃん。

俺がどれだけ必死にお前を探したか知らないから、そんなこと言えるんだよ」


勝手に探しておいて、怒られてもな…。


やっぱりこの人、自分本位だよね。


全然変わってない。


「ごめんなさい。ホントにもう私」


何とも思っていないんです…。


そう言いかけた途端、先輩が私の手を取った。


えっ、何?


何なの?この手は!
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