トレモロホリディ
「しばらくはそこで働いてたんだけどね。

でも、ちょっとあることがあって、ものすごく落ち込んで…。

何も手に付かなくなっちゃったんだ…」


なんだかすごく悲しそうな顔の湊君。


こんな顔をする湊君は、初めて見るような気がする。


一体何があったんだろう?


「俺があまりに元気がないから、寮の先輩が気晴らしにって、色んなところに遊びに連れて行ってくれたんだ。

そのひとつが、今の職場。

あのバーだったんだ」


「えぇっ、そうなの?」


湊君がコクンと頷く。


「壮真君が俺のそばに付いて、お酒を作ってくれてたんだけど。

壮真君、すごく聞き上手なもんだから。

お酒が入っていたせいもあって、思いきって悩みを聞いてもらったんだ…」


壮真君かぁ。


確かにあの人、話しやすい雰囲気があるものね。


「その時に誘ってくれたんだ。

一緒に仕事しないかって。

お前の悩み、この仕事でなら解決できるかもしれないぞって。

そんなことあるのかなって思ったけど。

もうその時には、工場のラインで仕事をする気力も無くなってたから。

だからその会社は一年で退職してさ。

寮を出て、壮真君のマンションに転がり込んだんだ」

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