トレモロホリディ
「お試しで始めた仕事なのに、気がつけば一年以上も働いていて。

もうこの生活には随分慣れて来たよ。

そうやって、仕事の比重が生活の大半を占めて来るとさ。

演じているバーの店員が、本当の自分だと思い込むようになってきたんだ。

随分社交的にはなったし、別に悪い方向に変わったとは思わないんだけど。

でも、なんかね。

どこかでずっと、違和感を感じてたんだ…」


違和感…。


それは、素の自分とバーの店員とのギャップ…なのかな?


「ねぇ。
美菜ちゃんが初めて、俺の部屋に挨拶に来た日を覚えてる?」


「ん?うん。もちろん覚えてるよ」


「実はね、正直言うと呆れてたんだ。

俺、ここに引っ越して来て一年くらい経つけど、ちゃんと挨拶に来たのは美菜ちゃんが初めてだったし。

両手に大きな紙袋を抱えて、大量のティッシュの箱を持ってるんだもん。

どこの田舎者が来たのかなって思った」


うっ。


やっぱり呆れられていたのか。


恥ずかしい…。

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