トレモロホリディ
「でも、美菜ちゃんと話すようになって、どこか懐かしい味の美菜ちゃんの料理を食べてたら、以前の自分を思い出したんだ。

あぁ、そうだ。

俺だって田舎出身の男じゃないかって。

昔の自分を否定してたわけじゃないのに、すっかり忘れてたことに気づいて。

美菜ちゃんといると、素の自分でいられるんだ。

すごくラクで、居心地がいい…」


「湊君…」


ビックリして、目がぱちぱちしてしまう。


そんなふうに思っていてくれたなんて。


私も湊君といるとホッとするけど。


同じような環境で、育って来たからなのかなあ…。


「俺、本当はすげー地味な男だよ。

どっちかっていうとおとなしいし、人見知りだし」


「えー、うそだぁ」


「見えないって言うんでしょ?

でも、それが証拠に、一人で買い物も一人で外食も苦手だもん。

人ゴミも苦手だし」


「あー…」


確かに思い当たるフシは多々あるような気がする…。


そんな人がよくあの華やかな世界で頑張っていたものだ。


素に戻れる時間がほとんどなかったんだとしたら、相当しんどかっただろうな…。


「なんか、ごめんね。一方的に俺の話ばっかり。

美菜ちゃんがまたそばで寝てくれるのが嬉しくて、ついね…」


そう言って微笑む湊君の優しい顔に、ボッと頬が熱を帯びた。


うぅ~。


そういう殺人級の王子様スマイルも、あの仕事で培われたものなのかな?


いや。


きっとこれは天然ものに違いない。


もともと、そういう素質があるんだわ。

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