トレモロホリディ
「あなた、いい人ね」


「え…?」


思わず顔を上げると、優しい瞳をした店主と目が合った。


「いい子だっていうのは、見てすぐにわかったけど。

私が常に心がけていること全てに気づいてくれるなんて。

きっと素敵なご両親に育てられたのね」


そう言われて、急激に頬が熱くなった。


「いえ、そんな…。出身がド田舎なだけです。祖父母も同居してますし。

自家製の味噌やぬけ漬けは当たり前に育ったもので…」


「なるほどねー。実は私もそうなの。実家は農家でねー。

採れたての新鮮な野菜を食べて育ったから、初めて東京へ来た時のスーパーの野菜の味の無さには本当に驚いたわ」


「あーそれ、すごくよくわかります」


二人で顔を見合わせてクスクスと笑った。


「私、あなたが気に入ったわ。いつから来れる?」


「えぇっ、ホントですかー?すっごい嬉しいです。

えっと、じゃあ明後日からでも大丈夫ですか?」


荷物を片付けないといけないし、寝る時間帯を昼間に変えなきゃいけないよね。


「もちろん大丈夫よ。明後日ね?了解。

あ、その時に履歴書を一応持って来てくれる?」


「わかりました。持って来ます。私、頑張りますね」


「うん、期待してるからね」


そんなこんなで。


有難いことに、私は引越ししたその日にアルバイトが決まったのだった。

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