トレモロホリディ
三万円っていう金額が、高いのか安いのか。


そんなことは全然わからない。


でも、それで買う人と湊君が満足しているなら、それで充分なのかもしれないよね…。


「ねぇ、美菜ちゃん」


「ん…?」


「ありがとね…」


「え?」


「美菜ちゃんが後押ししてくれてなかったら。

俺の絵は誰の目にも触れないまま、永遠に埋もれてたと思う。

誰かに俺の作品を好きだって言ってもらえる感動を、ずっと知らないままだったよ。


だから…、ありがとう…」


「湊君…」


「絵を描く楽しさもね。

夜の仕事を始めてから、すっかり忘れてたんだ。

たまに描く落書きだけで、別に充分だと思ってたんだ。

でも、いざ本格的に描き始めると、やっぱりすげー好きなんだなって思わされた。

描いてると、自分らしくいられる。

夜の仕事をしてたって、何をしてたって…。

ちゃんと素の自分に戻って来られるんだ…」


自分を見失いそうだったって言ってたものね。


絵を描くことで、本来の自分を思い出したってことなのかな…。


「作品が売れたことで、なんかちょっと自信がついたよ。

ホントに、すげー嬉しい」


そう言って湊君はにっこり笑った。

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