トレモロホリディ
ポケットからスマホを取り出した壮真君が、画面を見て突然立ち上がる。


「うっそ!マジで?」


片手でガッツポーズをし、興奮気味な壮真君。


俺もサンちゃんも、今まで見たことのない壮真君のリアクションに少しビックリしていた。


一体誰からの電話なんだろう。


そう思いつつ、俺は磨いたグラスを片付け始めた。


「もしも~し。ミナちゃん?」


背後から聞こえたその名前にドキッとして、持っていたグラスを落としそうになった。


「会社帰り?

あ、もう部屋に帰ってるんだ。

今?全然大丈夫。

って言うかミナちゃんからの電話は24時間大歓迎~」


お客さんなのかな…。


それにしては随分リップサービスがいいと言うか、甘い雰囲気と言うか…。


「ーで、どうしたの?

もしかして、俺と一緒に住んでくれる気になったとか~?」


えぇっ?


一緒に住む?


なんだ?それ…。


「湊さん…」


サンちゃんがツンツンと、俺の腕に肘を押し当てる。


「壮真さんのあの電話。

多分、本命の女性からですよ。

顔が緩み過ぎですよね」


そうだろうなあと、俺も思う。


デレデレしていると言うか…。


見ているこっちが、恥ずかしくなるくらい。


「うん。

ーで、どうしたの?

あぁ、うん。

いいよ。そんなのいくらでも教えてあげる」


俺らに聞かれたくない話なのか、壮真君は軽い足取りで店の外へと出て行った。


他の従業員達も、あまりにご機嫌な壮真君の後ろ姿をポカンと見ていた。
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