トレモロホリディ
引越ししたら、当然近隣には挨拶に行くものだよね。


大学に入学した時も母親と一緒に挨拶に回ったし、今回も当然そうしようと思っていた。


粗品は何がいいだろうと必死で考えた結果、ちょいと高めのティッシュペーパーに決めた。


ティッシュペーパーは誰しもが使うものだし、あって困るものじゃない。


自分では買わないけど、ちょっとお高めなティッシュはきっと喜ばれるんじゃないかしら。


そう思った私は、アパートの戸数分の高級ティッシュを買い込んだ。


まずは自分と同じ2階の住人からと思い、201号室からインターホンを鳴らしていった。


だけど、2部屋続けて留守だった。


昼間はいないだろうと思ったから夕方に来てみたのに。


まだ帰っていないのね。


学生?社会人?


まぁいいか。また後日寄ってみよう。


自分の部屋の前を通り過ぎ、今度は右隣の部屋のインターホンを押す。


しばらく待っていると、『はい』と返事をする男の人の声がした。


おっ、いたいた。


「あのー、隣の203号室に引越して来た者ですー。ご挨拶に来ましたー」


インターホン越しにそう伝えると、しばらくしてカチャッと鍵を回す音がドア越しに聞こえた。


私は少し緊張しながら、住人が出て来るのを待った。
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