トレモロホリディ
受付カウンターに到着した私は、早速カウンターの奥へと回った。


「じゃあ、頑張ってね」


爽やかに右手を上げる久遠社長にペコリお辞儀をすると、久遠社長が「ん?」という顔をして、カウンターに近付いて来た。


「ねぇ。

ちょっとそれ、見せてくれる?」


「え…?」


久遠社長が指差すのは、小さなフレームに入れた一枚の絵。


湊君が仕事を頑張れるようにって私のために描いてくれて。


手元に飾っているのだ。


これを見ていたら、湊君と一緒にいるみたいで、笑顔で頑張れるんだ。


どうぞと差し出すと、久遠社長がまじまじとそれを眺め始めた。


「これって、ポストカード?」


「いえ、違います。

本物の絵ですよ」


「え、そうなの?

どこで買った?」


「いえ、買ってはないです。

さっき話した、彼の絵なんです」


「えーっ、そうなんだ。

澤井さんの彼氏って、絵が上手なんだね」


「はい…。

絵を描くのが大好きなんです」


「ってことは、趣味で描いてるってこと?」


「はい、そうですね。

趣味で描いてます」


「ふぅん…」


社長は何か考え込んでいる様子だ。


ど、どうしたんだろう?

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