トレモロホリディ
久遠グループが入っているこのビルは、地下1階から2階まで、沢山の飲食店やお店が入っていて。


お昼時に限らず多くの人が訪れるビルなのだ。


休憩時間は限られているから、社長は比較的お客さんの少ないインド料理専門店に足を踏み入れた。


社長も私も2種類のカレーが選べるナンプレートのランチを選んだ。


「このビルのテナントの飲食店には全部足を運んだよ。

職業柄つい色んなところを見てしまって、落ち着いて食べられないんだけどね」


久遠社長がおしぼりで手を拭きながら言った。


「じゃあお昼は、毎日外食されてるんですか?」


「うん。100%そうだね。

外出していることも多いし、市場調査にもなるから。

その代わり、夜はちゃんと家で食べるよ。

妻の手料理をね」


「わぁ、そうなんですねー。

でも、お二人とも毎晩帰りが遅いですし、大変そうですよね」


「うーん。

確かに、妻がちょっと大変かもしれない。

でも彼女は手際が良くてね、作るのがとても早いんだ。


色んなお店の料理を食べてるけど、やっぱり妻の手料理が一番かな。

それに勝るものはないよ」


少しタレ目の社長の目が、さらに優しい目になる。


人事部長は日帰り出張なんかも多い方だからなあ。


自宅で一緒に食事をされる時間は、きっとお二人にとってすごく大切な時間なのだろう。


私も湊君に「美菜ちゃんの作る料理が世界で一番好きだ」って言ってもらえるようになりたいものだ。

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