トレモロホリディ
引っ越してみると、以前住んでいたアパートよりも、格段に通勤がラクになった。


反対に湊君が、電車通勤になってしまったけれど…。


湊君はというと、絵の制作が想像以上に大変そうだった。


仕事をしながらの作業なので、どうしても睡眠を削ることになってしまい、


好きなこととはいえ、身体にかなり負担をかけているようだった。


私が出来ることと言えば、バランスの良い食事を用意したり、洗濯などの家事を全て引き受けるくらいのことしかなくて。


湊君の絵が無事完成するのを、サスケとひたすら願うしか出来なかった。


そして気がつけば、11月の終わりを迎えていて、


湊君は既に2枚の絵を完成させていた。


だけど、最後の1枚に差し掛かった途端、急に調子が落ちて来てしまった。


何度描いても、どうしても納得がいかないと言って、ため息をついていた。


あと数週間でお店がオープンするというのに…。


部屋でうーんと悩んでいるよりも、実際にカフェを見て来た方がイメージが湧くかもしれない。


そう思った湊君は、私が会社で仕事をしている時間、完成間近の青山のカフェレストランに一人で足を運んだ。


良いインスピレーションが浮かんだらいいなあ。


そう願わずにはいられない私だった。

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