トレモロホリディ
「こちらです」


窓際に立てかけた三枚の絵。


そこに久遠社長がゆっくり近付いて行く。


目の前まで行くと、ピタッと立ち止まった。


社長は一枚一枚を、じっくり眺めている。


近付いて観たり、少し後ろに下がって観たり。


湊君はその様子を見ながら、私の隣へと静かに歩いて来た。


どれくらい時間が経ったのか。


しばらく絵の鑑賞が続いた後、


久遠社長が身体をくっと起こした。


「うん。いいね。すごくいい。

ハッキリ言って想像以上だ」


久遠社長の言葉に、私と湊君はハッと顔を見合わせた。


社長はくるり振り返ると、湊君の顔を真っ直ぐに見つめた。


その瞳は何かを確信したように、綺麗に輝いていた。


「遠野君に頼んで正解だったよ。

もう文句なしの合格だ。

いや…、それじゃ言い方が違うな。

ぜひ、この絵を僕に譲って欲しい。

青山のカフェレストランのために」


「ほ、ほんとですか!」


湊君の顔がパーッと明るくなる。


「あまり時間がなかったのに、ここまで出来るなんて。

キミは本当に素晴らしいアーティストだ」


社長は力強く、とても満足そうにおっしゃった。

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