桜の美
桜の伝説
まだ厳しい寒さが続く1月。


「美桜!」


後ろから透明感のある綺麗な声が私を呼ぶ。


「あ、乃亜。どうしたの?」


乃亜はこの学校で一番可愛いと言われるくらいの容姿を持ち、成績優秀で性格も良い。でもスポーツは少し苦手。


そんな乃亜は私の親友。いつからなのかは覚えていないけれど、いつの間にかお互いに親友と呼べる仲になっていた。


「あのね、今日は生徒会があるから一緒に帰れないの…。今日は美桜が部活ないから久しぶりに一緒に帰れたのに。ごめんね」


乃亜は当たり前のように人気が高く、委員会決めは必ず学級委員に推薦されていた。そんな乃亜が生徒会に立候補すれば票が集まるのは当然で、全校生徒の期待に応えるように生徒会長になった。


「大丈夫だよ。またお互い部活ない日に帰ろうね。頑張ってね。生徒会長」


「本当にごめんね…」


乃亜はがっくりと肩を落として落ち込む。
乃亜は吹奏楽部でフルートを吹いていて、私は写真部。
もちろん乃亜は吹奏楽部でも大活躍していて、生徒会長でもあるのに部長でもある。


「会長ー?会議始まりますよ」


「あ、はーい!ごめんね美桜。気をつけて帰ってね!」


眩しい天使の笑顔で手を振る乃亜に小さく手を降って背を向け、首に巻いたマフラーで口を隠すように覆う。


下駄箱で靴を履き替えて校門をくぐり抜ける。ふと、視界に入ったのは制服をきちんと着こなし、サラサラの髪を風になびかせながら歩く男の子がいた。


水野 司君。たぶん学年の中で知らない人はいないだろう。なぜなら常に学年トップをキープしている人だから。女子にも結構人気で密かに告白されているらしい。


私も水野君の真剣な眼差しに恋する女の子の一人だけど、私みたいになんの取り柄もない女の子が簡単に近寄ってはいけない人。だからいつも陰からそっと目で追ってるだけ。そのせいか同じクラスだけど話したこともない。


水野君が少し立ち止まったかと思うと小さな丘の上にある大きな桜の木を何秒かじっと見つめてまた歩き出す。


私もなんとなくその桜の木が気になって水野君が立っていた場所と同じ位置に立って水野君と同じように何秒かじっと見つめてみる。


刺さるような冷たい風が頬を掠めて桜の枝をも震わせる。もう少し眺めていたかったけれど、風邪をひくのは嫌なので桜に背を向けて歩き出す。


「……………」


なんとなく声がしてような気がして振り返ったけど、後ろには花も葉も纏わない桜の木だけだった。
< 1 / 1 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

公開作品はありません

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop