あたたかい場所
彼女…僕の幼馴染みの浜中美紗と僕、青山聡は、今日高校を卒業した。
僕は家から一時間程のそこそこのレベルの大学に進学が決まっている。
それに対し美紗は、進学はしなかった。
美紗は頭が悪い訳でも無かったし、家庭だって裕福な方だった。
なのに進学をしないことが僕は心に引っ掛かり、ある日美紗に聞いたのだ。
「なんで、大学行かないの?」
と。
「やりたいこと、あんねん」
曖昧でふわふわとした答えにもどかしさを覚えつつ、
それ以上は聞いてはいけないような気がした。
「秘密やで。お母さんとお父さんには働くって言ってもうたし」
口元に人差し指を当てて美紗は口止めしてきた。
「分かったよ」
僕は渋々頷いて、卒業のこの日まで深く聞くことはなかった。