あたたかい場所

「聡~!見てや、うちメイクボロボロ!」

美紗のメイクは海水ですっかり落ちていて、ファンデーションがまだらになっている。

だけど僕はそんな事より、美紗が元気に話しかけてきてくれたことの方が驚きで、何の反応も出来なかった。

「なんや、反応なしかいな。タオルもらうで」

僕の手からタオルを取った美紗は、スキップしながらスタッフがいる方へ向かっていった。



「美紗、元気になったかな」

彩芽さんは僕の隣に並んで、優しい目で美紗を見つめてる。

「まだどうすればいいか、分からない」



彩芽さんは消え入りそうな声で、僕に言った。

初めて僕に見せてくれた、“不安”“弱み”だった。


「正直僕も…わからないです。

でも、今日まで美紗を避けてたこと…後悔してます。

美紗は多分、彩芽さんたちが普段通りに接してくれることを望んでいると思うんです」


僕なりの、答え。

美紗を気遣うのであれば、それはいつも通り美紗と話したり、ご飯を食べたり、何もなかったように過ごすことであって、



ひとりにさせると余計に辛く、悲しくさせてしまうんだ。
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