あたたかい場所


「じゃあ私楽屋行ってくるね。美紗に喝入れなきゃ」

舌を出してお茶目に笑ったユリアさんは、あまり目立たない二階の端の席で見るらしい。


僕は、まだ開場前の一番前の列の真ん中の席に座ってみた。

ステージにはHOT HEARTのロゴが入った晴輝さんのドラム、

彩芽さんのベースが三つと、翔さんと美紗のギターがそれぞれ二つずつ置いてある。



一列目って、こんなに近いんだな…

ステージと少し距離があるとはいっても、少しでも身を乗り出せば簡単に手が届くような距離。


ここから見るHOT HEARTの演奏は、ファンの目にどう映るのだろう。

僕が夏のフェスの時に感じたあの衝撃を、もっと間近で見ているんだ。

もっと近くで、美紗の歌を、HOT HEARTのサウンドを、感じているんだ。


正直、美紗はしばらくステージに立たないのかなと思っていた。

強がっていても、内面は意外とナイーブな美紗。


今回のことで傷ついて、時間がもっと必要じゃないかと思っていたけど、

やはり待っていてくれるファンがいる限り、美紗は動き続けることが出来るんだと思う。


「青山くん、戻って!」

千晴さんから声をかけられ、僕はHOT HEARTの楽屋に戻ることにした。
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