あたたかい場所
数分の間、僕は手をつけられなかったけど、とうとうお腹が鳴ってしまい食べることにした。
それにしても黒い。真っ黒の出汁だ。
今まで食べてきたうどんの出汁は薄い茶色で、透き通っていて優しい味がした。
でも東京で食べる初めてのうどんは、しっかりと濃い出汁の味がした。
これはこれで美味しい。けど、けど…
一口一口をためらいながら食べていたら、その度に美紗が笑った。
「おもろいなぁ。知っとるから食べたい言うたんかと思ったわ」
「東京のうどんは全部これなの?」
「そうやで。どこ行っても。大阪の味がええよなぁ、やっぱり」
「うん…これも美味いけど」
「交換する?これは普通やで」
きっちり半分が無くなったざるの上のうどんを指さす美紗。
美紗の言葉に甘えて肉うどんの器を前に出した。
「事務所まで送ってや?」
「もちろんです」
そんな事ぐらいでいいならお安い御用だ。
美紗と換えて貰ったざるうどんは美味しかった。