恋が始まる5秒前
私は食堂の薄い緑茶を飲み干して、

「仕方ないじゃん!好きなんだもん!!」

っと力説しながらプラスチックのコップをゴトッて乱暴にテーブルに戻す。

「だってね、すっーごく長くてキレイで理想的だったの!」

「ハイハイ、"指"がね。それで顔覚えてないって、あんたバカでしょ?」

はい、おっしゃる通りバカですよ。
返す言葉もございませんよ。

指に見とれちゃってる間にいなくなっちゃったんだもん。顔なんて一瞬見たか否かで覚えられるわけないじゃない!

でもさ、仮に顔覚えてたとしてそれがなんだって言うんだろう?

だって結局その彼に話かけるきっかけなんてないんだもの。

“触らせてください”とか、ただの変態じゃない。

「わかってるなら、やめなさいよ」

思ってたことが顔に出ていたみたいで、ため息交じりにそう言われる。

何度目かの忠告も彼の指に夢中の私の耳を通り過ぎて行っただけで、何も残らなかった。
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