どうしようもないくらい好きでした(仮)



私は小さなスノードームを手に取りながら、ふっとそんな事を思った。


何だか随分前の出来事に思えてしまう。
それでも実際はほんの少し前の事で、誠二さんの語った言葉も、店内に漂う珈琲の香りも、はっきりと思い出せる。


時に思い出という物は、その時に感じた香り、聞こえてきた音や音楽、そんな物と同化し頭の中に記憶される物だ。


その香りを感じれば、例え何年たっていようとも、その記憶は香りと共に蘇るのである。


匂いは思い出となり、記憶される。


私は陸の匂いを思い出していた。
いつも部屋に焚かれる香の薫り。
いつしか私自身にも染み付いた薫り。


陸への思いが溢れ出す。
苦しいのは、愛しているから…。







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