どうしようもないくらい好きでした(仮)
「ただいま」
玄関を開けるとリビングに明かりがついているのが見える。
私の声が小さかったのか、いつもの元気すぎる声は聞こえてこない。
隣りには緊張したような陸の顔。
何気にそんな陸が新鮮で少し笑ってしまった。
「お邪魔します」
母は、今度は聞き慣れない声にいち早く反応したらしい。
慌てたように顔を出す。
「お客さん? どうぞどうぞ。あら、七海お帰り。噂の彼?」
噂と言う程、母と陸の話しをしたことはなかった。
いや。他の誰ともだ。
それでも浮かれた母の余計な発言を防ぐ為、私は適当な相槌をうつと陸の手を引いて部屋に向かった。
「突然すみません。すぐに帰りますから」
そんな陸の言葉にも、愛想よく返事を返す。
「どうぞごゆっくり。いつも七海がお世話になってるんだから」
満面の笑みを浮かべる母をすり抜け、私達は部屋に入った。