3本の長春花のおわり




「……ねぇ、引越しの準備は進んでるの?」



気だるげに尋ねたあたしとタイミングを揃えたのかと言いたくなるほど同じ時に、彼のアイスティーが届く。

受け取りながら、うーんと呟いて……これは進んでないとみた。



「社会人になるから引越しする! って言ったのはあんたじゃない。
さっさと準備しなよ」

「いやぁ、昔からそういうの苦手で……お前も知ってるだろ?」

「知ってるからこうやって叱咤激励してやってんでしょ」



うー、と言葉に詰まり、視線を落とす。

パッと顔を上げたと思うとあたしに向かって手を合わせてくる。



「ほんっと悪い! 手伝って‼︎」

「ええー、あたしが?」



眉間に皺をよせてみると、勢いが増す。



「頼むっ。ここの金出すから」

「昔から、なにか頼む時、あんたは奢るからって言ったわよね……」

「そうだっけ」



そうだよ。



「……でも、だめ。アイスティーたったの一杯で手伝いなんて割に合わない」

「じゃあ他にもなにか注文する?」

「そんな長居する気もない。
さっさと話終わらせて帰るわ」



持ち上げたメニューをゆっくりと下ろす。

珍しい彼の甘えるような瞳を向けられるのは幼馴染の特権と言うべきか。






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