雨とピアスと。
「離してっ!」
私は男が掴んでいる腕を振り払おうと
振り返った瞬間、息をするのを忘れそうになった。
男はしゃがみこんでいたから背の高さが分からなかったが、立つと180㎝を越える高さにモデルのような長い手足にフードで隠れていたのは整った顔立ち。
私を見つめる瞳は光のない真っ黒な綺麗な瞳だった。
「ねぇ、抱き締めてもいいかな?」
私はこんな名も知らない男に抱き締められるのなんて、嫌なはずなのに、何も言えずにいた。
男はそれを肯定だと思ったのか、
私はいつの間にか冷たい雫があたらない
濡れた男の腕のなかにいた。
なぜだか、とても心が落ち着いて
もう少しこのままがいいとさえ思ってしまった。
すると突然耳元で男が
今にも雨の音に消されてしまいそうな声で言った。
「運命って信じる?」
私は全身が痺れたように
身体が、心が、震えた。