素直じゃなくて何が悪い
体育祭
4月の終わり、5月の始まり。
桜ももう葉桜に近づき、暖かく爽やかな風が吹き始める―――
なんていう今日この良き日に西岡東高校の体育祭が催されます。
私はというと、暑い中日差しを浴びて...はいなく、テントの中で音響係。
競技中のBGMや、リレーの実況なんかを担当する。
とっても"オイシイ"お仕事なのだ。
まぁとは言っても競技まで免除というわけにもいかず、不人気のパン食い競争なんかに出なくてはならない。
大勢の前でパンに向かってぴょんぴょん跳ねるなど、羞恥以外の何物でもないが、体育祭の序盤に行われて、すぐ終わるしパンももらえて私にとっては一石二鳥の競技なのだ。
そして今は開会式―――
校長の長い話の中、みんなは陽向の地べたに、私は日陰のパイプ椅子に。
これはさすがに申し訳なく思えてくる。
そんな中私の隣で、楽々あくびをしている彼...もとい工藤くんを見ると、なんだか呆れてものもいえない。
放送部の部員は5人だが、私たち以外の3人は3年生で最後の体育祭だということでこの担当から外れている。
部長からも、そろそろ1年生を勧誘しろと強く言われているが、私に1年生への伝があるわけもなく、工藤くんに頼んでも"ダルい"の一言で片付けられてしまった。
なので今日は私と工藤くんで、すべて回さなければならない。
私がアナウンス。
工藤くんが音響。
しかし工藤くんは運動神経が良いので、いざ体育祭が始まるといろんな競技に引っ張りだこで、私はてんやわんやになり、工藤くんが競技をしている姿など、よほど見ていない。
昼になり、一旦落ち着いた頃、早々にゲットしたあんぱんをかじりながら、1年生の勧誘をしなければという危機感を身に染みて感じていた。
「なにそれ、競技で取ったやつ?」
「そう。あんぱん。」
「咲良、あんぱんのところまで速かったよな、そんなあんぱん食いたかったのかよ。」
「いや、一番低かったから。私の醜態を長時間皆様が見ることのないように。」
たしかにあれは醜態だよなぁ、とかいうこいつは人間の血が通っているのか。