素直じゃなくて何が悪い
春
日常
その重い扉を開いて、少し薄暗い部屋の電気のスイッチを探す。
電気をつけたら、そこには大きな機械と一つのマイク。
私はいつものように、そのマイクのある前の、少しガタつく椅子に座り、ゆっくりとマイクの音量を上げていく。
"みなさん、こんにちは。
今日の放送は、私火曜日担当の矢野です。
よろしくお願いします。"
お昼の時間の30分間。
私はこの学校を支配した気分になるのだ。
実際、お昼の校内放送を聞いている人はそこまでいないのだけれど、私の声が全校中に流れていると思うと、最初は恥ずかしかったが、今ではもう慣れてしまって、私の生活の一部と化している。
私、矢野咲良(ヤノサクラ)はここ、西岡東高校という何とも紛らわしい高校の放送部員だ。
私がまだ、ピチピチの高校1年生だったら、まだ慣れない高校に奮闘する様子も描けたのだが、残念ながら私は砂肝が大好きな高校2年生だ、あしからず。
いつものように、決まり文句を言い、今日のリクエスト曲を流す。リクエスト曲と言っても、半分は自分の趣味だ。
基本的に目立ちたくないというか、頑張っても目立てない私だが、放送部に入ったことは今でも後悔していない。
こうやって週に1度、心を落ち着けて、好きな音楽を流しながらお弁当を食べるというのも、私の気性にはなかなか合っていたみたいだ。
音楽をかけ終わると、校内放送名物のお悩み相談コーナーだ。
普段はみんな、放送なんて聞かないくせに週に1度のこの企画はなかなか好評らしく、耳をすませている人も多い。
毎週、違う曜日に当たるのだが、今週は我が火曜日が、その担当である。
私は言うまでもなく、この企画が苦手だ。人の相談にいいアドバイスができるほど、私は人生経験が豊富でないし、気も利かない。いつも当たり障りのないことを言ってしのぐのだ。
他の部員、特に部長はこの企画が大の得意で、部長が担当の日になると全校が笑いと感動に包まれるのだ。
私はいつもそれを、教室で友達とお弁当をつつきながら、ただただ尊敬の意で聞いている。