三日月蜜柑
キス
彼は付き合ってなかった。
並んで歩いていて、
突然近付いてきたあなたの顔。
何度も何度も角度を変えて、
慣れてるかたちで私にキスをする。
ちょっ、ちょ、ここ道路だよ、人はいないけど!
フレンチはしたことあったのに、
こんな深いキスは初めてだったの、
あなたは好きじゃないでしょ、私のこと。
どうして、付き合ってもないのに、、
”ごめん、ちゃんと送る、
後ろに乗って?”
自転車の後ろをたたいてくる。
二人のりで坂道を
夜の風をきり、駆け抜けてく。
家の近くの暗い路地までくる。
”さっきの、もう一回、したい”
彼は私に背中ごしにつぶやく。
私は自転車を降りて、彼に近付く。
細い月が、
暗い路地を照らす道で
深くて、でも切なくて、丁寧に確かめるように
角度を変えて重ねてくる
少し大人びたキス。
ねえ、私ずっと
あなたのこと、好きだったんだよ。