繋ぎたい女
「わ~!何だかワクワクしますね!」
先輩との初めての映画館デート。
私は、さりげなく雑誌の受け売り通り、彼の利き手側に腰を下ろす。
「ああ、ひなの、ずっと観たがってたもんな」
「はい!」
……でも、私のいうワクワクは違う意味で。
愛読雑誌の、彼氏が手を握るシチュエーション特集に、映画鑑賞が大きく載っていた。
暗い館内、そして他の観客の存在を忘れる程の音響。まさに、二人きりの様な錯覚に陥り、ポップコーンをとる時には、そっと重なりあう先輩の……
「ひなの……それ、俺の手」
え……?
思わず、ハッとわれにかえる。
ポップコーンへと手を伸ばした私は、先輩の手を何度も摘まんでいたようで……。
あまりの恥ずかしさに、手を引っ込めると、ごめんなさい!と、咄嗟に小さく謝った。
また、失敗しちゃった……。
折角のデートなのに……何も進展できない自分が、惨めで、情けなくて。
視線を落とした私の視界には、キュッと力が入る自分の手が写った。
すると突然、その手に、温かい大きな手が重なりあうと、するりと優しく包み込んだ。
思わず、先輩を見上げると、彼は、視線をスクリーンに向けたままで、そっと掴んだ私の手を、ふわりと唇に近付ける。
まるで、時が止まったみたいに、私の視線は先輩に釘付けになった。
「せ、先輩……?」
「やっぱり、いい匂いする」
「え?」
「ひなのの手。キャラメルに紛れて、フルーツみたいな匂いがしたから……」
そう言って、私の手の甲に、優しく唇をあてると、ちらりとその瞳を私に向けた。
「だから、確かめた……」
まるで撫でるように、私の指に先輩の指が絡まると、先輩は、満足そうに微笑んだ。
「手繋ぐのも、なんかいいもんだな」
「はい!」
私のバッグに入っている、魔法使いの魅惑のハンドクリームの事は、しばらく先輩には秘密にしておこう。
「で、何の匂い?」
「さ~……もしかして、私にもミスターマリック目覚めちゃいましたかね?」
「ハンドパワーじゃないでしょ?」
(完)