この手を握りたかったから
エプロンを外し、隣に腰を降ろすと、悟はすぐに私の左手をとった。

汚れると嫌だから、食器を洗う前に一旦外しておいたエンゲージリングを、いつものように丁寧にはめてくれる。

何度してもらっても、嬉しい瞬間だ。



「ありがとう。」

「こちらこそ、ありがとう。」



柔らかに微笑む悟の肩にもたれかかる。

これからこの人の奥さんになるんだと思うと、胸がときめいてキュンとなる。



「明日香の手、冷たいじゃん。お湯、使わなかったの?」

「手荒れしやすくなるから、使わなくても平気な時は使わないようにしてるの。」

「へぇ、そうなんだ。」

「大丈夫だよ。心配だったら、あっためて。温まったらハンドクリーム塗るから。」

「じゃあ、手、貸して。」



そう言うと、私の両手を大きな手のひらで包み込んでくれる。

温かくて、大きくて、指がキレイで、どことなく色気のある悟の手が好き。

何げない仕草をしている時でさえ、悟の細く長い指には、つい見惚れてしまう。
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