華美月夜
零
―――その日は、やけに明るい夜で。
ボクは立ち止まり、ふと空を見上げる。
紅い。
夜空に浮かんだ月は、夕日のように紅い。
実際は単なる光学現象なのだろうが、なんとなく不気味な感じがしてしまう。
…早く帰ろう。
そう、僕は家に帰る途中だった。
しかし、止めた足を動かそうとしたとき。どこからともなく奇妙な音楽が聴こえてきた。
(……アコーディオン、か?)
懐かしいような、暗いような、不思議な旋律の音楽。その音色に誘われるように、通行人たちがすぐそばの公園に吸い込まれていく。
そういえば、この公園では町の祭りが開催されていた。
春に植えた苗が秋に豊作になることを祈願して始まったという、よくありがちな由来の伝統祭りだとか。
だが、現在では何が目的で開催されているのか、今は冬に時期である。縁日という季節でもなのだけど。
(でも…楽しそうだな)
好奇心旺盛なボクの足はふらり、ふらりと赴くままに公園を目指していた。