華美月夜
何が可笑しかったなんて、互いに解らない。だけど、目の前の“自分”が笑っているのを見たら、なんだか心がくすぐったくなったんだ。
交わす言葉も見つからないまま、互いに笑みを浮かべていると。
「齋藤」
低く心地よい声が、聞こえた。
そこには物静かな印象の男がいた。
驚いた様子はないと見て、ボクは見えていないようだ。
「…干支さん」
(……あ、れ?)
顔見知りに会えば、誰彼構わず笑顔を向けていたのに、この男だけは態度があからさまに違う。
「…随分と久しいな」
「はい、そう、ですね…」
「他の当主はもう来ているだろう?」
「…はい」
そうか、というと先に急ぐように行ってしまった。
(どうしたんだろう)
と、話し掛けようとしたとき、いつの間にかまた違う人と少し離れたところで“ボク”と話していた。
今度はでも楽しげだ。
「………どこかで、見たことが…」
あるような。