華美月夜

―――気のせい、だ。

なんともない。

大、丈夫だ。

なんともない、なにもない。

公園の隅にある木に寄りかかり、乱れた息を整える。

「………ぅ、あっ!?」

その刹那、視界が暗くなると同時に、激しい頭痛に襲われた。

『夜珱』

『夜珱さま』

『夜っちゃん』

『珱殿』

『齋藤』

『若』

齋藤 夜珱。saitou yao.

それがボクの名前。

低く心地よく響く六つの声は、ボクを呼んでいる……?

やがて視界が開けて、見慣れない風景が広がっていく。

これは。

何処だろう。
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