華美月夜

景色は、その人を中心に進んでいく。

“翆斗さま”とかいう男と別れた後、中庭の真ん中にぼんやりと立っていた。

「夜珱さま」

少し弾んだ声が、静かだった空気を明るくした。

「雨涼っ??」

その少年の顔を見て、驚く姿がそこに。

「どうしてここにいるのだ、雨涼。蔡剣さまはご一緒でないのか」

「当主は珱羅さまと対談中なのでございます」

「そうか父さまと……。そうだ、雨涼、今日は翆斗さまも来ておられるのだ。雨涼も一緒にお茶をしていくといい」

「本当、でございますか。宮若さまが。……はい、喜んで私もいただきます」

二人が他愛ない話を始めたころ。

また背後から声がする。

「夜っちゃん、遊びにきたで」

白い髪の長身の男が、目に薄い笑みを浮かべて立っていた。

(関西弁、か)

「矢撫殿! 貴方も父さまも呼ばれてきたのか」

「思てた以上に驚いてくれへんかったなぁ。そやで、珱羅さまに呼ばれて来とるんや」

「矢撫殿までいらしたとなると、父さまは何のために当主を集めて…?」

「あれ、夜っちゃん知らされてへんの?」

「あぁ、父さまからは何も」

「そうかい。ほな、わては行ってくるさかい夜っちゃん、また後で楽しみにしっとてな」

長身の男は、雨涼とかいう少年の頭をグシャ、と撫でた後去って行った。
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