華美月夜
頭を撫でられたことに顔をしかめる雨涼と、それを見て思わず笑うボク。
とそっくりなこの人。
「私、唐尾の当主様は苦手です」
苦い顔をして、そう言う少年に柔らかく微笑みかけている。
「気にすることないさ、人には相性というのがあるからな」
「…夜珱さまはみんなにお優しいから、誰とでも相性がよろしいですよね」
「ん? どうした、雨涼。珍しいこと言ってくれるな。褒めたってなにもでないぞ?」
少年の態度が少し変わった。まるで言いたいことを遠まわしに言ってるように。
ボクには聞こえた。
「いい度胸じゃねぇかあ坊主」
(………っ?)
ボクが驚いたのは、背後から話しかける形で、逞しい身体をした男がいたからだ。
「東さん!」
「なぁに珱殿を口説こうとしてんだ」
眉間に深い皺を寄せて、少年を凄まじい威圧感で睨んでいる。
「え」
「う」
と、同時にそんな声が聞こえてきた。
それから、間もないうちに「誤解です」と聞こえてきた。
「そんなことより、東さん。父さまに呼ばれていらしたのでしょう?」
話題、変えたな。そんなことより、か。
「あぁ。まぁ、そんなとこだ」