老いたる源氏

嵯峨野1

京都嵯峨野の冬はとても寒い。
2月は一年でもことさら寒い日々が続きます。

晴れていても雲の流れは早く、日差しが隠れたかと思う間もなく
冷たいみぞれや霧雨に覆われます。

数日前に降り積もった小雪の塊が道脇や苔むした岩陰に、
これからの寒さをじっと耐えて滲ませています。

六条の御息所と源氏が密会した野々宮神社から竹林の小道は
こぼれ日もなくうす暗く、思わず襟を立てて
うっそうと天まで続く竹林の中を大河内山荘に向けて
坂をゆっくり歩み上っていきます。

上り詰めて山荘の門前で大きく深呼吸をします。
なぜならここには平らな大きな空間が広がっていて
一息つくにはもってこいの場所だからです。

白い息をゆっくりと吐きながら
「これから先もまた坂か」と思いつつ

ふと振り返ると、見事な竹林の下り坂に
思わず息を止めて見とれてしまいます。

今も昔もおそらくこの坂の勾配と小道の幅は
竹林の丈は違いがあってもこの香りと空間の漂いは
時が止まったかのような物の怪への入り口を感じます。
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