老いたる源氏

冥府6

老いたる源氏はふと父桐壷帝のことを思い出しました。
「そうだ父上を探さなくては」

遠くに源氏の声が響きます。
「父上ーっ!桐壷院の父上ーっ!」
闇の中から桐壷院が現れます。
「その声は源氏。光源氏じゃな?」

「あー、お父上。お久しぶりでございます」
「おー、ひさしぶりじゃのう。准太上天皇になったそうじゃのう」
「さようでございます。冷泉が私の子であることを知ってから譲位を
望みましたがそれはお受けできません」

「なるほど。そこで准太上天皇とはよう考えたもんじゃ」
「相当悩んだみたいです」

「ははは、そりゃそうじゃろう。父親が部下じゃとやりずらかろう。
しかし誰にその秘密を聞いたのじゃ?」

「紫の上が死んでから四十九日の日に横川(よかわ)の僧都から聞いたそうです。
えっ、父上はすでにご存じだったのですか?」

「ああ、もちろん知っとった。そりゃそうじゃろう。どう考えても月があわん。
生まれた子を見てすぐにそう思うた。それに」
「・・・・・」
「お前と藤壺が恋仲なのも気づいておった。姉弟のようじゃったし母を知らぬ
お前のことじゃ、不憫でのう。いつかはこうなると思っておった」

「そうでしたか・・・・・」
「しかし気にするな。冷泉はわしの孫じゃ。孫とはほんとにかわいいものじゃ。ははは」
「ありがたきしあわせ。恐縮至極にございます」

「ははははははははははははは・・・・・・・」
桐壷院の笑い声が遠くに消えていきました。
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