老いたる源氏

冷泉院4

「驚いたのはその春にわしが宮中に上がったとき。帝は若君を
わしに見せ『源氏にそっくりだ』と無邪気に満面の笑み、わしは
、たぶん御簾の中の藤壺の宮も、生きた心地はせなんだ。帝は
最後の最後まで不義の子とは思わなんだと思う」

異様な沈黙に源氏はすぐに言葉を継ぎます

「もしそうでなかったとすれば。父桐壷帝はとてつもなく心の
大きい人やったということやが、それはない」

「帝はその秋母上を中宮にされました」
「そう、それで君の将来は完璧になった。帝は子のわしの将来を占い
臣下の長源氏の名を賜るが、当時のわしはすべてに際立っていた。
兄東宮をも凌ぐほどに。父はその負い目にすべてを許してくれた。
しかし不義の子とわかればそれは絶対に許せるものではない、そう思う」

冷泉院も賄のお市も惟光もここで同時に大きくうなづきます。
「わしはこの間夕顔や葵上を亡くし藤壺にも会えず苦しさのあまり朧月夜
の君と契るがこれがあだとなる。東宮妃になられるお方だったのじゃ。

その後父桐壷院が亡くなり激しく藤壺の宮に言い寄り続けはしたがこれは
叶わぬ恋、父の一周忌についに宮は出家してしまった。これで全ては終
わり。結局足しげく朧月夜の君に通い続けることになる」

「それが知れるところとなり、先を見越して父君は須磨へと」
「そのとおり。須磨は大変じゃったが明石は実に楽しかった。
全てはあの入道のおかげじゃ。疑い晴れて都に戻った次の年じゃったな、
君は帝になり、冷泉帝、いくつの時じゃ?」

「は、十一でございました」
時折お市が酒や肴を運んできます。
「十一か、わしはすぐに内大臣に任じられ参内するようになった」
冷泉院が源氏に酒を注ぎながら、
「絵合わせを覚えておられましょうか?」

「ああ、あの絵合わせは一生忘れられん。君は絵をかくのが好きじゃった」
「梅壺の女御に教えていただきました。弘徽殿の女御も中納言も必死でした。
母藤壺の中宮もお出になりました」
「ああ、宮と御君のもとであの須磨明石の絵巻を披露した今思えば親子3人」
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