あふれる涙のドロップス
 数分後、あたしはある病院の病室にいた。



 
「___この子は、もうすぐ死にます。運命では。でも、その運命を変えるのが、私達の役目なのです」




 その病室の、ベッドに横たわっている男の子は、静かに眠っているようだった。



「この子の胸に、手を当ててください」




 あたしは深く深呼吸をして、その男の子___プレートには、『朝日 純』と書いてある___の胸に自分の手を置いた。



 
 その途端___ビリビリという電流のようなものがあたしの体に走った。




 そして____あたしの頭のなかに、純くんの声が、こだましている。




 生きたい、生きたいよ___。切実な願いを、強く、強く、願っていた。




 あたしは衝撃を受けて、春山さんの顔を見る。




「リンさんには、今、きっと朝日くんの『心の声』が聴こえているでしょう。それを聴いて、その人達の魂をこの場に留めるか、それとも、解き放つか___それを決めるのが、私達の役目なのです」




 不意に、あたしの目から、涙がボロボロと溢れた。





「……リンさん……」





「は……るやま…さん。この子の魂は……引き止めましょう」




 春山さんは、優しい微笑みを顔にうかべて、静かに頷いた。
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