あふれる涙のドロップス
 そう言って僕達の間に割って入ったのは今川 健陽(いまがわ たけはる)。長身のいかにも女子にモテそうな奴だ。




「一年生に好奇の目で見られてんぞ」





『構うもんか!』






 思わずハモる僕達。それを見てゲラゲラ笑う今川。平和な風景である。





「おーい、男子バレー部!よく聞けよー。今からグラウンド10周!サッカー部と野球部がいるが気にするな!それじゃがんばれ!」





 呑気にボールと遊んでいたらいきなりこの命令である。もちろん、武藤の命令。




 一年生は二年生に逆らってはいけないという暗黙の了解があるらしいので、とりあえず武藤の命令に従う(武藤がいなければ武藤の命令なんて聞かなくていいぞ、と扇動したいところだが。)。



 

 せめてもの抵抗ということで僕は足を踏ん張ってその場に立っていたが、長身✕握力60の今川に首根っこを掴まれてグラウンドへと連れて行かれるのである……。




    

  *  *  *




 ゼェゼェという一年生の苦しそうな息が聞こえる。只今グラウンド8週目。




 
 僕達二年生は、去年の部長、大橋 誠(おおはし まこと)先輩にさんざん走らされたので、このくらいじゃ、あんまり苦しくない。




 でも、体は火照り、汗がダラダラと垂れる。ああ、気持ちが悪い……。




 頬をつたる汗を拭い、ふと校舎の方を見た僕は、思わず立ち止まった。




 顧問の向井(むかい)先生の、「何やってるんだ立川!」という怒声が聞こえたけれど、僕にそれは聞こえなかった。



 
 リンが、誰かに顔を近づけられていたのが、見えたから。









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